企業の「実態」を見抜く難易度が上がる中、現場で警戒すべきなのは、経営者自身の嘘だけではありません。その背後で糸を引く税理士「粉飾決算のプロ(指南役)」の存在です。税理士だけではなく、ここには経営コンサルタント、中小企業診断士、元銀行員で保険会社に勤める社員も含まれます。
今回は、銀行を巧妙に欺く「えせ専門家」の実態と、それに対抗するための審査の最前線について解説します。
巧妙化する「プロ」による粉飾の指南
粉飾決算といえば、在庫の水増しや売上高の架空計上など、よく注意すれば発見するのが容易な方法が中心でした。今でもそれらが粉飾方法の中心ではあります。
しかし最近では、税理士、経営コンサルタント、中小企業診断士といった肩書きを持つ「指南役」が、精巧な決算書作成を支援するケースが増えています。
彼らは「どうすれば格付けが上がるか」「どの科目を操作すれば疑われにくいか」を熟知しています。
「関与税理士名」のチェックを
融資審査において、これまでは「決算書の数字」そのものが重視されてきました。しかし、数字が「作られたもの」である可能性を排除できない今、「その決算書を誰が作ったのか」という「作成者の信頼性」のチェックも必要です。
みなさんの銀行では、過去に粉飾に関与したり、不適切な会計処理を繰り返したりしている専門家の情報を管理していませんか。
「あの税理士が関与しているなら、この決算書は鵜呑みにできない」という判断は、今や現場の勘ではなく銀行全体で組織的に行うべきです。
当社の地元千葉県でとても有名な税理士法人が、粉飾決算に関与していたのを見つけたことがあります。税理士法人の担当者は、税額計算に影響がないと主張していましたが、借入金残高を少額にするなどの粉飾をしていました。
地元の地方銀行とも太いパイプがあるようですが、「有名=安心」では決してありません。
「資料提出」の拒否は、即ち「融資謝絶」のサイン
悪評のある専門家が関与している疑いがある場合、銀行側はこれまで以上に詳細な資料提示を求める必要があります。
例えば、総勘定元帳や通帳の原本です。
通常は決算書だけであって、これらは提出を求めないでしょう。しかし、高い確率で粉飾していることが濃厚であれば、支店長にも相談して融資先に依頼すべきです。
こうした詳細な資料提示に対して、「税理士の指示で出せない」「機密事項だ」と拒む企業に対しては、「資料が出ない以上、審査の土台に乗せない(融資しない)」という毅然とした対応をとるしかありません。
税理士等が粉飾決算に協力する理由
税理士は顧問先企業の代理として正しい決算書を作成し、正確な納税額を計算する専門家です。
どの商売も楽ではありませんが、税理士も顧問先獲得に苦労しています。たくさんの顧問先を抱えている税理士なら、わざわざ自分たちにリスクのある粉飾決算に協力することはしないでしょう。仮に顧問先が粉飾をしようとしている(あるいはすでにしていた)なら、それをやめさせるはずですし、それに従ってもらえなければ顧問契約をするでしょう。
しかし、顧問先獲得に悩む、売上高の伸び悩みに悩む税理士は、顧問先が資金繰り悪化で苦しみ銀行に少しでもプラスの評価を得られる決算書の作成を依頼されると、それに応じてしまうことが多々あります。
もし断れば、「あの先生は融通が利かない」との不満が発生し、知り合いから「もっと融通の利く税理士を知っているよ」と言われれば、顧問契約解除のおそれがあります。
税理士も顧問先の減少を防ぐことができ、資金繰りも改善されれば、自身の顧問料にも影響を与えないで済みます。それは経営コンサルタントや中小企業診断士も考え方は同じです。
今まで出会ってきたえせ専門家
税理士だけではありません。中小企業を支援するはずの経営コンサルタントや中小企業診断士、あるいは元銀行員の生命保険会社で働く社員が、不正な方法で融資を受ける方法を教えていることは決して珍しいことではありません。
元銀行員で税理士
当社が地元の経営者団体で知り合った顧問先です。名刺交換をした直後にできあがったばかりの決算書を見て欲しいとの連絡がありました。
決算書を拝見すると利益がしっかり出ています。過去を見てもずっと黒字決算でした。しかし、社長の話では、「会計データを税理士に渡す前は大赤字なので、出来上がった決算書はいつも黒字なんです。なんかおかしいと思って」とのこと。確かに在庫などがおかしい。
総勘定元帳をチェックしたところ、売上高の前倒しや仕入高を翌期に支払った時点で費用計上する方法が行われており、実態は7期連続の赤字。
税理士は「私のようなプロが正しい会計処理をすれば黒字なんですよ」と平気で嘘をつき、顧問料の値上げまで要求していました。
ちなみに元メガバンクの行員でした。
コロナ禍で架空売上の計上をさせる中小企業診断士
コロナ禍は企業経営に大きな影響を与えたことはみなさんご存じのはずです。北関東の卸売業を営む企業から「当社は経営を継続することができるか」との経営相談がありました。
何とか利益は少額ながらも出ていたものの、借入金の返済がかなり負担となっていました。しかし、現状では新たな融資は難しいとの銀行の対応であったため、当社はリスケジュールで資金繰りを改善しようと提案しました。顧問税理士も賛成してくれました。
しかし、社長と対立関係にあった専務が連れてきた中小企業診断士は全く別の意見で、「手元資金がないのなら、架空売上高でもどんな方法を使ってでも、もっと利益を出した決算書にしなきゃ」という内容です。
粉飾がいけないこと以前に、コロナで販売数量が大幅に減少しているし、それは銀行も知っているためすぐにバレると言ったのですが、多額の資金調達ができる可能性があることに魅力を感じた専務派の意見がとおってしまいました。
粉飾決算の指南で多額の報酬を要求する経営コンサルタント
融資額の3~5%を受け取る経営コンサルタントがいます。融資に必要な計画書などの書類作成やアドバイスとしては適正なものでしょう。しかし、私が知っているある経営コンサルタントはそういうことをしていません。
実態とはまったく異なる数字の決算書を作って融資を受けやすくしています。それだけではありません、資金繰り予測を作成し顧問先経営者に伝える際、わざと不安な内容にして融資を受けるよう勧めるのです。そうすればまた報酬を要求できるからです。
これ以上の粉飾は無理だと感じてくると、そのコンサルタントは顧問先を見捨て、次の獲物を探しに行くのです。
どれも顧問先の経営支援なんて考えていない
これらえせ専門家の共通点は、顧問先の経営よりも自身の報酬にしか興味がないことです。
それは誰だって商売ですからそういう面はあるでしょう。しかし、多くの専門家は違法なことはしないし、顧問先にもさせてはいけません。
当社もそうですが多くの専門家は、顧問先企業が日々経営改善を行い、銀行から高い評価を受ける経営をお手伝いして報酬を受け取ります。そのほうが専門家の報酬も安定しますし、顧問として長期のお付き合いが期待できます。
もし融資先に専門家が付いているのなら、どのような業務をお願いしているのか経営者に聞いてみるといいでしょう。専門家への報酬支払は、支払報酬や支払手数料で計上されています。年間数十万円程度なら顧問税理士への報酬だけかもしれませんが、中小企業で数百万円にまで達していたら複数の専門家が関与している可能性があります。
まとめ
「えせ専門家」は、銀行の敵であると同時に、最終的には融資先をも破滅させる存在です。
融資審査の際、決算書の右下にある「税理士署名欄」を今まで以上に注視してください。もし過去に問題があった名前を見つけたなら注意してください。他の顧問先でも粉飾を行っている可能性は高いですから。
また、他の専門家がいるのでしたら、融資先にどのような内容で関与しているのかもヒアリングしてみるといいでしょう。

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