粉飾決算を見破る主な方法としては、利益率や回転期間に異常がないかがよく知られています。しかし、元銀行員等の銀行側の立場に詳しい者が関与している場合、異常が出ないよう対策していることもあります。そこで労働分配率と労働生産性にも注意しましょう。
労働分配率とは
労働分配率とは、付加価値に対して人件費が占める割合です。
労働分配率の計算式
付加価値から人件費に支払われた割合が労働分配率ですが計算式は次のとおりです。
労働分配率=人件費÷付加価値×100(%)
企業が生み出した付加価値に対して人件費の占める割合が労働分配率ですから、高いほど企業は少ない利益から人件費を支払うことになり負担になっています。低い場合はその逆で経営的には負担が軽いことを意味します。
付加価値
付加価値とは、例えば小売業なら売上高から商品仕入高を差し引いた売上総利益のことです。1万円の商品を1万3千円で販売すれば、3千円が付加価値になります。なお、製造業等はやや複雑です。製造原価報告書のなかに労務費が存在しますから、必ず含めるようにしてください。
ただし、実際の計算式はやや複雑です。代表的なものをご紹介します。
1,中小企業庁方式(控除法)
売上高から外部購入額を差し引いて計算します。
付加価値=売上高-外部購入額
※外部購入額:材料費、外注加工費、商品仕入、製造経費など
2,日銀方式(加算法)
付加価値=人件費+金融費用+減価償却費+賃借料+租税公課+経常利益
※減価償却費を含める場合は「粗付加価値」、含めない場合は「純付加価値」といいます。
付加価値の計算式は日銀方式(加算法)が多いのですが、減価償却費を含めない場合もあり様々です。ただ、このブログは粉飾について説明するのがメインなので、簡易的に「付加価値=売上総利益」とします。
労働分配率が低下したら
図表のような損益計算書の企業があったとします。

前期・当期とも労働分配率は90%を超えています。そこで売上総利益を増加させようと、当期の売上高を架空計上したものが当期①、利益率に変化がないよう粉飾したのが当期②です。どちらも労働分配率が大きく低下したことが分かります。
収益力の弱い企業では労働分配率が高い傾向にありますが、急に低下したら何等かかの方法で利益を増やす行為がなされた可能性が考えられます。
では労働分配率の変化を隠すために人件費を増やすかといえば、今度は利益の減少を招き粉飾した意味を失います(当期③)。
労働生産性
労働生産性とは、従業員(あるいは従業者)1人当たり、どれだけの付加価値を生み出したかを数値化したものです。
労働生産性の計算式
労働生産性=付加価値÷従業員数または従業者数
労働分配率の時と同じように、付加価値にも計算式は様々ですし、分母も従業員だけでなく役員も加えた従業者の場合もあります。
労働生産性が急上昇したら
図表から労働生産性を計算すると前期・当期ともに4,000千円をやや超える程度でしたが、粉飾した当期①や②は増加しました。
事業内容に大きな変化があったのならそれもあるかもしれません。しかし、通常は急激な変化はないものです。事業内容そして従業員数に大きな変化がないにもかかわらず、1人当たりの生産性に大きな変化があったら、売上高や在庫の水増し等で粉飾を行った可能性があります。
給与額や従業員数を見よう
給与額や従業員数から粉飾が発覚することもありますので、次の点にも注意しましょう。
源泉所得税の納付書に異常がないか確認
企業は原則として毎月10日までに給与や賞与の源泉所得税を納付します。
その源泉税納付書には支払年月日、人員、支給額、税額等が記入されています。銀行などで納税し納付書の情報は税務署にも行きますから記載内容は正しいものになります。支給額や税額に嘘が絶対ないとは限りませんが、決算書が粉飾される確率よりは極めて少ないでしょう。
試算表や決算書の利益を増やすために人件費を少額計上し、納付書には本来の金額が計上されていることもありますから、可能であれば提出を求めるといいでしょう。とはいえ融資先に源泉税の納付書を要求するのは難しいかもしれません。
従業員数や事業内容を確認
日頃の面談のなかで従業員数や事業内容について聞いておきましょう。銀行担当者は融資先を訪問した際、特に意識しなくても新しい社員が増えた、最近人が少ないと感じると思います。
最近は人手不足、採用難、そして採用してもすぐに退職するなど、人材面での悩みを抱える中小企業は多いですから、面談時はそれらの話題を振ってみましょう。
従業員数や事業内容に変化がないにもかかわらず、労働生産性が上昇していたら粉飾を疑うことが必要です。
まとめ
粉飾決算の主な方法は売上高や在庫の架空計上ですが、それがバレないよう企業が対策をしていることもあります。利益率や回転期間といった代表的なもの以外にも、労働分配率や労働生産性から粉飾を疑うこともできますので注意しておきましょう。
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