前受金を売上高等へ振り替え

貸借対照表の負債に前受金が計上されることがあります。これを使った粉飾が行われることもあります。

前受金とは

通常、商品・サービスを提供する前に受領した代金は、それを提供するまで負債として計上しなければなりません。例えば、英会話学校等が1年間で60万円の授業料を受け取ったとしましょう。その場合、各月に前受金から売上高に5万円を振り替える処理をします。前受金はその他にもエステティックサロン等でも見られます。

建設業においても、請負代金の一部を受け取った際に使用する未成工事受入金は、勘定科目名が違うだけで前受金と同様に考えてかまいません。

前受金から他勘定科目へ

前受金を使った粉飾方法は次のとおりです。

売上高の嵩上げ

先ほどの例なら1年分60万円を先に受け取っています。3月決算の企業が3月分から翌年2月分を受け取っていたなら5万円しか売上高には計上されません。そこでより利益を出すために、60万円全額または一部を売上高として処理するのです。

本来の仕訳
(借方)前受金5万円/(貸方)売上高5万円

粉飾時の仕訳(すでに3月分5万円を売上高処理していたら)
(借方)前受金55万円/(貸方)売上高55万円

仕入高の圧縮

これは前受金を用いて仕入高を減らす粉飾方法です。収益を嵩上げするのではなく、費用を削減することで利益の過大計上を行います。すでに3月分5万円を売上高処理し、残高が55万円としたら次の処理を行います。

粉飾時の仕訳
(借方)前受金55万円/(貸方)仕入高55万円

本来、仕入高は借方に計上されます。それを前受金を使って逆仕訳を計上するため、その分だけ費用は減少します。

売上高が急増すれば、それだけ成長力のある企業に見せることができます。しかし、やり過ぎれば銀行からは売上高の前倒し計上を疑われる可能性があります。それを隠すためにはこのように費用を減らす処理を用いてきます。売上高と仕入高の両方を粉飾することでより発覚を困難にすることもあります。

悪質な粉飾ではない?

すでに商品・サービスの代金をすべて前受けしているのですから、これから必ず売上高は発生します。まったく存在しない売上高の計上や、在庫の水増しに比べると、ただ前倒しするだけのことであるため、実行する経営者は悪質な処理ではないと考えているでしょう。

キャッシュフロー計算書には影響がない

キャッシュフロー計算書とは、会計期間におけるキャッシュ(資金)の増減を、営業活動、投資活動、財務活動ごとに区分し表示する書類です。

営業キャッシュフローは、前受金をすでに受領済みですから、売上高に振り替えても資金の増減には影響しません。仮に税引前当期純利益が0円だったとして、前受金100を売上高処理すれば利益は100に増加しますが、営業キャッシュフロー内で前受金が100減少しますので、±0のままで粉飾前と変化がありません。

なお投資キャッシュフローや財務キャッシュフローにも影響はありません。

前受金を使った粉飾発見のポイント

前受金を使った粉飾は、売上高の前倒しだけでなく、仕入高の削減にも利用されます。

事業内容をよく確認

取扱商品・サービスを知っているだけでは不十分です。資金の動きについても把握が必要です。毎月請求書を発行し翌月には入金されるのか、それとも予め先に代金を受け取るのか、そこまで確認はしておきましょう。

前受金が常に発生する事業を行っているにもかかわらず、それが過年度と比べて少ない、あるいはまったくないとしたら、異常だと気づきやすくなります。

原価率及び利益率に変動はないか

売上高の嵩上げ、仕入高の圧縮、どちらにしても原価率や利益率に変化が発生します。これは粉飾処理によって変化は発生しますから、前受金だけでなく他の粉飾もないか確認しましょう。

まとめ

前受金が発生する業種を営む企業では、売上高あるいは仕入高へ振り替える粉飾方法を使うことがあります。

顧客が右肩上がりで増加している場合、業績と資金繰りは順調でしょう。しかし、顧客数が横ばいや減少に転じると、それを隠し業績は好調を維持していると見せかけるために、売上高の前倒し計上等が行われます。したがって、前受金は減少しますし、前受けした資金が減少し資金繰りも悪化していきます。

事業内容に加え顧客との資金のやり取りについてもよく確認し、前受金が異常に減少していないか、利益率にも変化がないかに注意しましょう。

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