借入金残高の削減

借入金が増加すれば債務償還年数等の返済能力は長期化、自己資本比率の低下といった、財務分析での数値が悪化します。銀行からの融資が徐々に難しくなる可能性があるため、経営者は借入金を減らしたいと考えます。

借入金の粉飾例

貸借対照表の借入金残高を減らしても、勘定科目内訳明細書では銀行ごとの借入金残高や利息を記載しなければなりません。そこで次のように行われます。

実際の借入金残高が200百万円だったとします。

A銀行残高:100百万円
B銀行残高:50百万円
C銀行残高:30百万円
D銀行残高:20百万円
合計200百万円

しかし、この企業にとって200百万円は借入金残高が多いと指摘される規模であるため、150百万円にしたいとしましょう。その場合は次のように残高を粉飾します。

A銀行には以下の残高で提出します。

A銀行残高:100百万円
B銀行残高:25百万円
C銀行残高:15百万円
D銀行残高:10百万円
合計150百万円

B銀行には以下の残高で提出します。

A銀行残高:75百万円
B銀行残高:50百万円
C銀行残高:15百万円
D銀行残高:10百万円
合計150百万円

このように提出する銀行の借入金残高は正しいものにしますが、それ以外の残高を粉飾するのです。

借入金を減らす仕訳例

借入金を減らすためには、貸借対照表なら資産との相殺、損益計算書なら収益への振り替えまたは費用との相殺が考えられます。借入金を他の負債に振り分けることもできますが、負債総額に変化がないため、このような粉飾はまずないでしょう。

資産との相殺

借入金の粉飾に手を出す企業は、すでに他の方法で粉飾を行っていることが大半です。例えば架空売上高の計上により入金されるはずのない売掛金が残っていれば、相殺によって借入金残高を減らせますし、さらに売上債権回転期間も正常値に近づけることができます。この場合は次の仕訳を入れることになります。

(借方)借入金/(貸方)売掛金

収益への振り替え、または費用との相殺

借入金を売上高に振り替える、または仕入高等の費用と相殺することで利益を増やすこともできます。以下の仕訳を入れることで簡単に利益を増やせます。

(借方)借入金/(貸方)売上高

あるいは

(借方)借入金/(貸方)仕入高等の費用

借入金残高を減らした結果、返済能力や自己資本比率などが改善されます。なお、仕訳は一つではなく複数行われていることもあります。

借入金残高の粉飾はかなり悪質

粉飾決算はどのような方法であっても、銀行からすれば自分たちを騙す行為となるでしょう。

各借入金残高は返済予定表等で分かります。それに決算書を完成させ申告書を作成する税理士もチェックできます。にもかかわらず借入金残高を減らし、勘定科目内訳明細書を粉飾するのは相当悪質なものだといえます。顧問税理士も粉飾に関与している可能性があります。

残高が実態と一致しない他の例

銀行を騙し融資を受ける目的で行っている場合もありますが、誤った会計処理の結果として借入金残高が一致しないケースも見てきました。

元金と利息の内訳を間違えていた

融資実行時や金利変更時、企業は銀行から返済予定表を受け取りますが、毎月の元金返済額と支払利息額が分かります。期末時点での借入金残高も記載されています。

しかし、通帳から引き落とされた金額が例えば30,800円、元金返済額が28,000円、利息が2,800円だったとします。それを会計ソフトに入力する際、誤って元金返済額29,000円、利息が1,800円で入力してしまい、それ以降も元金は28,000円と思い込んで処理し続け、結果として誤った期末残高になってしまった決算書をまれに見ます。よく確認しなったミスで悪質な粉飾とは違うでしょう。

納税額を減らすため

小売業を営む企業からご相談を受けた際、銀行から次のようなことを言われたとのこと。

「取引銀行の支店長から決算書の借入金残高がおかしいと言われました。顧問税理士以外の専門家に一度見てもらってください」。この企業は地元の地方銀行と一行取引です。

貸借対照表に計上された借入金残高は約1,500万円でしたが、返済予定表を見ると本来の残高は約3,000万円です。先ほどの返済額と利息額の内訳を間違えてしまったでは済まない金額です。

資産を見るとほぼ同額の貸付金1,500万円が計上されていました。借入れた資金を何に使ったのか詳しく確認してみると、ほぼ全額を生活費など経営者の個人的なことに使われていました。

企業が経営者等に貸付けを行った場合、法人税法上は利息を徴求しなければなりません。

どうやら顧問税理士はその貸付金利息をできるだけ少額にしたく、借入金と貸付金を全額相殺はさすがにやり過ぎなので半額にしたようです。一行取引ですから残高が違うと指摘されるのは承知のうえでしょう。しかし、税務調査があったら、この処理は問題になるかもしれません。例えば、貸付金利を1%とした場合、1,500万円なら15万円ですが本来は3,000万円なのですから30万円、つまり計上額が少ないのです。

発覚する理由

しかし、借入金を粉飾しても通常なら発覚しやすいでしょう。

異なる決算書が信用保証協会に届く

よくあるのは信用保証協会が各銀行経由で入手した決算書の内容が異なっていることです。いくら銀行ごとに騙すことができても、信用保証協会では明らかになってしまいます。複数の銀行と保証協会付き融資があればすぐに見破られる粉飾です。

そこで企業は決算書で超優良企業に見せかけ、プロパー融資で資金調達しようとします。それによって銀行ごとに異なる決算書が存在することを隠します。

法人開拓する際、銀行はお願いする側になりやや立場は弱くなるでしょう。しかし、いくら決算書の内容が良かったとしても、信用保証協会の利用を頑なに拒むのは注意したほうがいいです。しばらく預金取引から始めて様子を見たほうがいいです。

借入金残高と支払利息のバランス

決算書上の借入金残高を粉飾しただけでは、支払利息のバランスに異常が発生します。借入金残高を減らし支払利息はそのままなら、金利は異常に高いものになるでしょう。自行の平均と全体の平均に乖離があれば注意が必要です。

なお、赤字決算や利益が少額なら支払利息の一部を隠すこともあります。営業利益はプラスだが経常利益がマイナスのような場合です。しかし、それなら架空売上高の計上や在庫の水増しを選択することが多いと思います。

リスケジュール時のバンクミーティングを拒否する

経営が著しく悪化した企業は、取引銀行に対してリスケジュールを要請することがあります。ご存じのとおりそれは全行同一条件での支援になります。

銀行としては企業がどのように経営改善を行い、返済を再開できるか経営改善計画書を提出してもらうでしょう。もしこれまで粉飾決算を行っていることが疑われる場合は、バンクミーティングを提案してみることです。

全銀行の前でこれまで異なる決算書を提出していたことが明るみになるため、拒否してくるはずです。企業側からは各行を訪問してそれぞれに説明すると言ってくるでしょう。

経営改善計画策定支援事業(いわゆる405事業)は、経営改善計画策定やその後のモニタリング費用を国が補助してくれる制度です。企業は費用負担を大幅に軽くしながら銀行からの支援を取り付けやすくなります。したがって、企業側にはメリットが大きいので利用を提案してみましょう。

本来はこのような経営状態になったら、過去の粉飾内容を銀行に伝えるべきですが、この制度を提案しても拒否するなら発覚を恐れているものと考えられます。

以前提出してもらった借入金明細との整合性がつかない

期中に試算表などと一緒に借入金明細を提出してもらったが、決算書の借入金残高を見ると大きく差が出ていたとしたら、その間に融資を受けたか繰上返済を受けたということです。

資金繰りに余裕があるのならそれもあるでしょうが、そうでもない企業が繰上返済をするのは違和感があります。疑わしい行動をする企業に対しては、借入金明細を定期的に提出してもらうことをすすめます。

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