現金預金の粉飾

決算書作成において、どの勘定科目も残高に誤りがないか確認します。特に預金口座の残高は、銀行も自行の分は確認できますから、経理担当者だけでなく申告書を作成する税理士も通帳や残高証明書でチェックし、会計データとの一致を確認します。

現金・預金の粉飾

銀行から融資を受けたい企業は、赤字を黒字にする粉飾方法が大半だと考えるでしょうが、そんなことはなく貸借対照表も銀行にとって魅力的な数字に粉飾してきます。特に預金は粉飾しづらいですが絶対信頼できるともいえないのです。

現金や預金が多額にあれば資金繰りは安定しているようにみえます。それなら融資は不要に見えるかもしれませんが、営業目標をクリアするには提案しやすい企業になります。

現金の粉飾

本来の現金残高は少額なのに帳簿上は多額になっている企業は、中小企業においては意外とあることです。

というのも、特に小規模企業では経理専属の社員がいないことが多く、さらに同族企業では企業と経営者個人が一体になっているため、資金面も企業と個人が一緒になり現金管理がうまくいかないのです。

例えば、接待や消耗品、事務用品の購入に必要な現金として、普通預金から10万円を引き出したとしましょう。その10万円は経営者の財布に入ってしまえば、個人的なことにも使われてしまい、その結果、残った現金と領収書の合計額は10万円にならないのです。帳簿上は架空の現金が存在することになり、そんなことが続けばいつの間にか多額の現金残高にまで膨らんでいくのです。

多額の現金残高があったら、粉飾による場合もありますが、その多くは経理が杜撰な結果であることが多いです。

ただ、架空でも多額の現金があるように見せることができ、流動比率などの指標にもプラスだろうとそのままにしているのです。

現金を多く見せる粉飾としては、以前あったのが架空の売上高計上を計上し続けてしまった結果、売掛金残高が大きく膨らんでしまい、銀行から実在するのか疑われ始めたので、現金回収したようにした企業がありました。本来はあまり意味のないことですが、取引銀行は融資を継続していました。

現金商売なら多額の現金残高もあるでしょうが、多額の現金を扱わない業種なら怪しいですし、扱う業種であったとしても毎日の売上高から多いと感じるのなら、粉飾あるいは現金管理が杜撰であり、経理に問題があると思って構いません。

預金の粉飾

預金残高は自行の分はすぐに分かりますが、他行分は決算書に残高証明書のコピーが添付されていれば確認できます。しかし、添付されていないことも多く、正しい残高なのか確認できないこともあります。そもそも証明書が偽造されている場合もありますが。

預金残高を見たところ次のようなことがあったら注意しましょう。

融資取引のない銀行に多額の残高が

融資取引のある銀行には少額の預金残高しかないのに、取引のない銀行に多額の預金残高があるのは、それだけで直ちに粉飾と決めつけることはできませんが、おかしいと考えましょう。

普通は支払いや返済が頻繁に発生する口座は、残高不足にならないよう多めに入れるものです。にもかかわらず、他行の口座に多額の残高を置いておくのは不自然です。ひょっとしたら預金取引自体存在しない可能性があります。

そのようなことをしている理由、その取引銀行から融資の提案はないのかなど、いろいろ聞いてみるといいでしょう。

また、最近はほとんどないでしょうが、経営者が見栄を張っていることもあります。

私が銀行員として働いていた時、ある融資先企業は私が勤めていた銀行や近くの信用金庫と融資取引があったのですが、決算書の内訳書を見ると預金はどちらも数千円程度でした。しかし、融資取引のない三菱銀行の普通預金には数千万円ありました。

粉飾はされていなかったのですが、経営者が自社のメインバンクは三菱銀行だと主張したいのが目的でした。

信用保証協会の利用がない場合

信用保証協会を利用して融資を受けている企業は、各銀行に決算書を提出するので、それが信用保証協会にも渡され、銀行ごとに決算書の内容が異なることがバレてしまいます。

しかし、信用保証協会の利用がなければ、複数の決算書を作成してもそれが1つに集まることは通常ありません。

そこで例えば、5千万円の普通預金残高(A銀行3千万円、B銀行2千万円)を1億円にしたとします。そして、A銀行に提出する決算書は、A銀行3千万円、B銀行7千万円として作成、B銀行に提出する決算書はA銀行8千万円、B銀行2千万円のように作成するのです。

また、当座預金や普通預金は少額なのに、多額の定期預金が計上されていることもあります。これも架空計上の場合がありますが、定期預金が担保になっているでしょう。

税理士が関与している可能性

現金残高は期末日時点での確認が必要ですから、税理士は企業から言われた現金残高を信用するしかないでしょう。しかし、預金は通帳などから確認することができます。残高が違っていれば銀行から決算書の信頼性を疑われますから必ず確認するはずです。

税理士は顧問先から通帳など決算書作成に必要な書類の提供を受ける権利があります。契約書の中にもそう書かれているはずです。

それにもかかわらず残高が違う、または架空預金を存在するように粉飾されていたなら、税理士も関与していた、少なくともその粉飾を知っていたと疑われます。

もしこのような粉飾が発覚したら税理士の変更検討も必要です。なぜなら、現預金の粉飾にまで関与するようなら、他の粉飾方法も実施されている可能性が極めて高いですし、これから提出される決算書の信頼性も低いと考えられるからです。

銀行から税理士を変更しろとは強くは言えないでしょうが、今後の決算書に大きな不安があると伝えることはできるでしょう。

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