取引銀行の担当者が「社長、今後の融資の参考にしたいので、ぜひ在庫を見せていただきたいのですが」とお願いすれば、ほとんどの経営者は快く応じてくれるでしょうし、詳しい説明もしてくれます。
自社の経営をオープンにすることで、これからの銀行との付き合いにプラスになるのですから、逆によく見て欲しいでしょう。銀行員が「見せてください」とお願いして、「ぜひどうぞ」と言ってくれば一応安心です(そう言っても粉飾している場合がありますが)。
例え銀行員が相手でも、企業秘密などを理由に消極的なこともあるかもしれません。もしそうなら明確な理由を言うでしょうし、支店長などからお願いすることも可能です。銀行員は自行が融資した資金で商品や原材料を購入しているのですから、遠慮せずに在庫を見せてくださいとお願いできる立場です。
在庫を見せることに消極的なら
しかし、いろいろと理由を付けて在庫を見せることに積極的でない、拒否するようなことがあれば、何か隠し事があるのではと推測できます。決算書の棚卸資産は架空計上されているか、不良在庫が隠されている可能性があります。次のような在庫を見せられない理由を言ってくるかもしれません。
在庫は離れた場所に保管してある
もう20年近く前、千葉県の自動車販売会社から資金繰り相談を受けた時です。メインの信用金庫は急増した在庫に不信感を持ち、経営者にどこに保管されているのか聞かれたそうです。そこでその経営者は離れた場所に保管してあると嘘の説明をしたとのこと。
もし本当に離れた場所に保管してあるとしたら、どこにあるのか具体的に教えてくれるはずですし、どこに何が保管されているのか管理されているはずです。また、企業が所有する不動産なら決算書に計上されていますし、固定資産税を納めているはずですし、市区町村から届く固定資産税の納税通知書にも所在地が記載されています。また、賃借しているのなら地代家賃が計上されているはずです。どれもなければ明らかな架空在庫です。
仮に家族や知人などの空いた土地に保管していあるとしても、少なくとも具体的な場所は言えるはずです。
しかし、メインの信用金庫はそんないい加減な説明で融資を実行していました。
取引先に預かってもらっている
これは携帯電話の部品を取り扱っている企業のケースです。台東区の狭いマンションの一室で中古携帯電話を取り扱っていました(当時はまだスマートフォンが普及する前です)。毎年増加する中古携帯電話の在庫ですが、決算書の数字が正しければこれ以上の在庫がありそうです。それについて銀行が聞いてみると、取引先に預かってもらっているという回答でした。
これも離れた場所に保管しているのと同じです。しかも、取引先の許可も必要となると、あまり強くお願いできないように仕向けたいのでしょう。
もし取引先に預けているのなら、何をどれだけ預けているのか書類やデータ等で管理しているはずです。何もないとしたらまず粉飾でしょう。
この企業は確かに取引先に預かってもらっていましたが、私が見たところ実態とは大きな差がありました。
散らかっているから
散らかっているところを見せしたくないのは分かりますが、これも架空在庫を知られるのを避けるための言い訳と考えられますし、不良在庫の存在を指摘されるのを避けたい理由もあるでしょう。仮に在庫が存在しているにしても在庫管理がしっかりできていないのは問題です。
このような企業では棚卸しも面倒になり、もう何がいくらあるのか分からないため、経営者は「たぶん100万円ぐらいあるだろう」で期末在庫の数字を決めています。しかも、決算書作成中に若干の赤字だと分かれば、期末在庫の残高を増額させて利益調整を行います。
「売れるから」「お金に変えることができる」という発言
これは架空の在庫を水増しするのとは違い、在庫でも不良在庫の存在についてです。
在庫を見せたがらない経営者を何とか説得して見せてもらえたとしましょう。しかし、実際に倉庫などにある在庫を見ても、決算書にあるのは期末時点での残高ですから一致はしません。そこで保管されている在庫を見せてもらうのなら、本当に売れるのかどうか、資産として価値があるのかどうかの判別をしましょう。
決算書に計上されている商品などの金額がこれまでよりも増えていれば、「本当にそれだけの在庫があるのだろうか」と思うでしょうし、「通常の販売価格で売れるのだろうか」と疑問を持つでしょう。
それを経営者に質問しても、必ず「大丈夫ですよ。売れますから」と答えてきます。
経営者の回答を聞いて安心してはいけません。確かに売れるだろうけど、本来の価格ではないからです。経営者も売れるとは言っても、定価で売れるとは言っていません。「たぶん売れる」「いつかは売れる」「(定価で)売れると思う」というのが本音です。
例外はもちろんありますが、基本的には早期に商品は販売され、原材料は製造に使われます。仕入れてから半年以上も残っていれば資産価値が疑わしいですし、1年以上も残っていたら不良在庫と疑っていいでしょう。
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