架空資産を固定資産に振り替え

粉飾の見抜き方

架空売上高計上や在庫水増しなどの粉飾によって、銀行から評価される損益計算書にすることができます。しかし、粉飾の多くは貸借対照表にその副作用として架空資産が計上されてしまいます。

あまり経理に詳しくない経営者であれば、そんな決算書でも平気で提出してきますから、粉飾を見抜くことができるかもしれません。しかし、詳しい経営者であれば粉飾が発覚しないよう、貸借対照表もきれいにしてきます。

その方法の一つとして固定資産への振り替えがあります。

固定資産とは

固定資産とは建物、機械装置、車両運搬具、工具器具備品などを指します。

中小企業では建物を賃借していることも多いですが、製造業であれば機械を保有しているでしょうし、業種関係なく営業車などの車両、パソコンやエアコンなどの器具備品は保有していることが多いでしょう。

企業はそれらを使用して売上を獲得していきますが、徐々に資産価値は減少していきます。その価値減少分を減価償却費として費用計上します。

架空資産を固定資産へ

粉飾によって発生した架空資産、例えば売掛金は入金されることはなくずっと残ったままになります。しかも粉飾は1回だけでなく何度も行う可能性が極めて高いです。繰り返していくうちに明らかにいびつな残高になりますから、発覚を避けるために何とか減らしたい、できれば消し去りたいと考えるようになります。

それを可能にするのが、架空資産を固定資産に振り替える方法です。企業にとってのメリットは次のとおりです。

架空資産が消える

この振替処理により多額の架空資産を簡単に消すことができます。機械や車両運搬具などは一般的に数百万円以上しますから、多額の架空資産があっても簡単に消すことが可能です。小規模かつ固定資産がそれほどないような企業では疑われるかもしれませんが、いくつもの固定資産を保有する規模の企業であればバレにくいと思います。

減価償却費によって完全に消し去ることができる

架空資産を消すことはできますが、そのままでは架空の固定資産は残ったままです。しかし、土地以外の固定資産は減価償却を行うことができますから、それによって徐々に残高を減らしていくことができます。建物などは耐用年数が数十年と長期になりますが、それ以外の多くは数年から10年程度です。減価償却によって固定資産は1円まで減らすことができますし、最後は除却することで完全に消し去ることができます。

返済能力の改善

中小企業から見たもう一つのメリットとしては、返済能力の改善でしょう。

あまり銀行融資に詳しくない経営者でも、長期借入金の返済原資が「税引後利益+減価償却費」だと知っています。そこで架空資産を減価償却で処理することで、返済能力が増えたように装うことができます。

企業の返済能力を見る財務指標としては、EBITDA有利子負債倍率や債務償還年数があります。

EBITDA=(借入金-現預金)÷(営業利益+減価償却費)

債務償還年数=(有利子負債-正常運転資金-現預金)/(経常利益-法人税等+減価償却費)

どちらの計算式も銀行や書籍によって多少の違いはありますが、どちらも返済原資として減価償却費が出てきます。

見抜き方

小規模企業ならそれほど多くの固定資産を所有していませんから、異常な固定資産の計上はすぐに見抜けるでしょう。しかし、年商数億円規模以上になってくると、多数の固定資産を所有することも多いです。特に本社と工場が分かれている企業なら、粉飾の発見がしづらいかもしれません。

定期的な確認

融資先企業を訪問するとき、面談する相手は経営者や経理担当者になるでしょう。だとすれば訪問場所は本社の管理部門だけです。本社と工場が同じ場所にあってもそうだと思います。

しかし、時々は固定資産台帳に記載された資産が実在するか確認すべきでしょう。

別の場所にある場合、そう頻繁に固定資産が設置されている工場や倉庫などへの訪問はできないかもしれません。それでも1,2年に1回でも訪問しましょう。

試算表を確認

この処理をする際、次のような仕訳処理を行っています。

架空資産を固定資産へ振替

架空売掛金を車両運搬具に振り替える場合、次の仕訳を入れています。

(借方)車両運搬具3,000,000/(貸方)売掛金3,000,000

架空売上高と仕入高計上時に発生

架空売上高を計上する際に、差額を固定資産で処理する場合もあります。

(借方)仕入高7,000,000/(貸方)売上高10,000,000

(借方)車両運搬具3,000,000

「売掛金/売上高」では利益率が大きく変化してしまうため、そうならないよう仕入高を入れています。利益はその分だけ増加しませんが発見しづらい粉飾になります。そしてその差額を固定資産にしているのです。

決算月で処理されることが多い

これらの仕訳処理は決算月で行われていることが多いと思います。

理由としては、定期的に試算表を銀行に提出している場合、過去の提出分に大きな修正が加わるため粉飾を疑われます。それにいくら減価償却費が返済能力を計算する際にプラスされるとはいえ、できるだけ営業利益や経常利益が黒字にしたいと考えます。したがって、決算月で計上すれば減価償却費は少額になり都合がいいのです。

決算書の提出を受けたら決算月の試算表を見せてもらいましょう。

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