中小企業の決算書を見ると、負債の部に経営者からの借入金が計上されていることがあります。短期・長期借入金の中に銀行からの借入金とは分けて計上されていたり、別途、役員借入金(あるいは個人借入金)などの勘定科目を作り、そこで経営者からの借入金を管理していたりもします。主に固定負債に計上されていると思います。勘定科目名をここでは役員借入金とします。
増減があった場合
役員借入金に増減がある原因としては次のようなことが考えられます。
増加した場合
役員借入金残高が増加した原因としては次のとおりです。
経営者からの借入れ
銀行からの資金調達ができない中小企業は、経営者個人からの借入れに依存することが増えます。
経営者への未払金の振り替え
資金繰りが厳しくなってくると、経営者への役員報酬ができなくなることがあります。するとそれは未払金として残ったままに。
それが膨れ上がってみると、役員借入金に振り替えることがあります。
流動負債よりも固定負債に計上した方が見栄えもいいでしょう。
ノンバンクなどからの借入れ
銀行以外からの借入れは、銀行から見るとあまり評価はできないでしょう。銀行からの支援が受けられない業績で、かつ資金繰りが極めて厳しいことから、高金利に手を出さざるを得ないわけですから、倒産リスクは上昇しているといえます。
経営者もそのように見られることを理解していますから、銀行以外の高金利での資金調達は隠す傾向にあります。
減少した場合
減少した場合は次のことが考えられます。
返済した
通常であれば借入金が減少したわけですから返済したことが考えられます。これは特に問題はないでしょう。
債務免除を行った
返済だけとは限りません。借入金の返済を免除してもらった(経営者からすれば債権を放棄した)可能性もあります。
自社の資金繰りのために貸付けをしたものの、これからもずっと返済してもらえそうにないなら、債権放棄をしようと決断する経営者はいます。
その場合、損益計算書の特別利益に債務免除益が計上されることになります。
(借方)役員借入金×××/(貸方)債務免除益×××
粉飾に利用されている可能性
この役員借入金を利用して粉飾決算をしている場合があります。
架空資産との相殺
粉飾によって損益計算書はキレイにすることができたとしても、貸借対照表の資産には汚いものが出てきてしまいます。
例えば架空売上高を計上したことで売掛金残高が目立ってしまう場合、次の仕訳を一つ入れることで隠すことができます。
(借方)役員借入金×××/(貸方)売掛金×××
売上高として計上
本来、債務免除を行えば、特別利益に計上されることになります。
それによって税引後利益はキレイになっても、営業利益や経常利益といった利益には何ら影響はありません。
経営者としては銀行が重視する営業利益や経常利益を改善したいため、それならば、債務免除益なんかではなく売上高として処理しちゃえばいいと考えるのです。
(借方)役員借入金×××/(貸方)債務免除益×××
ではなく
(借方)役員借入金×××/(貸方)売上高×××
とします。
粉飾に利用されていないか
役員借入金が減少しているとしたら、粉飾に利用されている可能性があります。
利益率の確認
役員借入金を売上高の増加に利用する粉飾方法は、架空売上高の計上や在庫の水増しに比べればそう多くはありません。
それらの粉飾方法を使ってもまだ赤字が出ている、かつ多額の粉飾をしているため、やむを得ず実行しているのです。
少額というより多額の役員借入金を売上高で処理するので、売上総利益率(粗利益率)に変動が出ているかもしれません。
試算表を確認
決算書では1年間の累計になっていますから、月次試算表の提出を依頼してみましょう。すると、役員借入金が減少した月に売上高が他の月よりも大きい、そして利益率が高いようならその可能性は極めて高いでしょう。
まとめ
役員借入金を使って粉飾をしてくるようなら、他の粉飾方法をすでに実行しており、それでも黒字にしたいということですから、かなり経営が苦しい可能性があります。
決算書を見てその可能性があるようであれば、今後は試算表を毎月提出してもらい、粉飾がしづらい、してもすぐに見つけることができるようにしましょう。
コメント