銀行員のみなさんは融資先企業から試算表を提出してもらうことがよくあるでしょう。
試算表とは
日々の取引は仕訳帳に仕訳され、さらに総勘定元帳の各勘定口座へ転記されます。そして、この記録が正確に行われているかどうかを確認するために作成する表を試算表といいます。決算書の作成に入る段階で、記録が正しいか確認するために作成するのが本来の目的です。
ただ、試算表は期中に作成される仮の決算書(貸借対照表や損益計算書)ともいえますから、日常の融資業務においても融資先から提出してもらい、経営状況の確認、融資の提案などに使うでしょう。
あくまで途中経過
期中に作成する試算表ですから、決算書よりも正確性で劣ることが多いです。
例えば、最新の試算表を提出するために、概算で計上されているものがあったり、後で金額の修正が入ることもあります。さらには勘定科目を間違えている場合もあります。
例えば、まだ仕入先から請求書が届いていないが、だいたいの金額は分かっているため、それを仕入高として計上した、工具器具備品として処理したら実際には消耗品費だったようなケースがあります。
これは銀行を騙す目的ではなく、単なる経理処理ミスですし、最新の業況報告をしたいために発生するもので、粉飾のような悪質なものではありません。
試算表の信頼度は低い
粉飾された決算書があるのなら、粉飾された試算表というものも存在します。例えば、銀行から融資を受けようと直近の試算表を提出するとします。しかし、赤字であったため、架空の売上高を計上し利益を出して提出することはいくらでもありえます。
売上高の架空計上だけでは粉飾しているのが目立ってしまうようなら、他の方法も使ってでも粉飾試算表を作成してきます。
いくらでも言い訳できる
もしみなさんが試算表をチェックしたところ、粉飾のような箇所を見つけたとしても、「経理や税理士が処理を間違えた」などと言い訳をされてしまえば、銀行側としては確定した決算書ではありませんから、それ以上追及することはできないでしょう。
試算表の信頼度は低い
つまり試算表はあまり信用できません。それは単なる経理処理ミスもあれば、銀行を騙す目的の場合もありますが、あくまで仮決算書のような書類ということです。
特に銀行から融資に必要だからと言われて作った試算表は疑ってください。融資がうまくいくよう何らかの粉飾が行われていると考えたほうがいいです。
融資に関係なく毎月提出してくる企業もあるでしょう。提出してこなくても銀行から依頼を受けたらすぐに提出してくれる企業は、経理体制がしっかりしていると思いますし、粉飾しているリスクも少ないと思います。少なくとも提出しない(提出が遅い)企業よりははるかに信用できます。
試算表の注意事項
これまで述べたように試算表は決算書以上に信頼性の低い書類です。しかし、決算書が完成するまでの期中において、企業がどのような経営状況にあるかを知るには試算表に頼るしかありません。その際には、以下の点においても注意してください。
棚卸資産
棚卸資産とは商品、製品、原材料などいわゆる在庫ですが、中小企業でも毎月の在庫がいくらあるのか棚卸しを行い、月末残高に反映させている企業はあります。しかし、まったく行わず期末に1回棚卸しを実施している企業が多いです。なかには適当な数字を計上している企業も少なくありません。
棚卸資産の残高が期首残高つまり前期末残高のままになっている企業は、現時点で利益が出ているのか赤字なのかよく分からないことになります。
また、各月の利益にも影響を与えます。例えば、9月に材料を仕入れ、10月に売上が発生するようなケースです。9月に仕入れた材料は9月末には残っていますから、その分を在庫として計上し、10月には販売されたのであればその分を減らさなければなりません。売上総利益や利益率が異常に高いあるいは低い場合は、前期の原価率を使って売上原価を計算する必要があります。
減価償却費
車両、機械装置、建物などの固定資産は徐々に資産価値が落ちていきます。その分を費用として計上する際に発生する勘定科目が減価償却費です。
決算書を作成するタイミングで減価償却費を計上すると、期中の試算表ではその分だけ利益を増やすことになります。したがって、今期の減価償却限度額を確認し、その分だけ控除する必要があります。もし分からなければ前期の減価償却費を参考にするといいでしょう。
税込処理の企業における消費税の取り扱い
消費税の経理処理については、税込処理と税抜処理の2つがあります。
簡単に説明すると、例えば売上高が10,000円、仕入高が6,000円発生したとしましょう。税込処理で10%の場合、売上高11,000円、仕入高6,600円、利益は4,400円となります。税抜処理の場合、売上高10,000円と仮受消費税1,000円、仕入高6,000円と仮払消費税600円という科目が発生します。そして利益は4,000円です。
つまり税込処理のほうが利益が大きくなってしまいます。それを解消する方法が消費税額分を租税公課等の勘定科目で計上する方法です。このケースなら、租税公課400円を計上し税込処理でも利益は4,000円になりました。
しかし、毎月の消費税額を反映した試算表が作成されることは少ないです。消費税額は基本的に申告書作成のタイミングでしか行われません。税込処理でも会計ソフトを使っていれば、税抜処理で集計すれば毎月の消費税額は分かるのですが、そこまでしている企業は少ないと思います。
期中に受け取った試算表では利益が出ていたものの、消費税額を計上したら赤字になることもあるので注意してください。
試算表は月ごとのを提出してもらってください
試算表は会計ソフトで簡単に好きな期間を選択して集計することができます。
会計期間が4月から3月の融資先が10月に融資の相談をしてきて、みなさんは試算表の提出を求めたとしましょう。10月の上旬ならまだ9月まではできていないでしょうが、通常なら4月から8月までの試算表なら提出できます。そこで8月までの累計した試算表をもらうことも多いかと思いますが、ぜひ月ごとに集計したものをお願いしてください。それは次の理由からです。
毎月の推移が分かる
毎月の売上高や利益そして利益率が正常であるか、異常な動きはないかを確認できます。また、大きく増減した勘定科目があればチェックしやすくなります。
累計だと粉飾が見つけにくい
累計で表示された試算表では粉飾されたことが見つけにくい特徴があります。9月に試算表を出すため、8月に粉飾を行ったとすれば、月ごとの試算表なら8月の異常に気が付きやすくなります。しかし、累計で表示された試算表では見つけにくくなります。
定期的に提出を求めたい
試算表はできるだけ毎月提出してもらうようにしましょう。
毎月提出してもらっていると、先月までの数字が違っていることがあります。それは計上漏れの売上高や費用もありますし、経理処理に誤りがあった場合もあります。修正があったらその月の試算表を再度提出してもらいます。
また、試算表で毎月提出してもらえば、後になって粉飾をすることが難しくなります。
まとめ
銀行にとって試算表は融資先企業の経営状況を期中でも把握できる重要な書類です。しかし、試算表の数字は確定したものではなく、あくまで仮のものです。また、それを悪用して粉飾された試算表も多いです。それらを理解したうえで試算表をチェックするようにしてください。
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